・認知症の初期〜中期に「知らない人がいる」という訴えが出ることがある
・否定するより、まず気持ちに寄り添うことが大切
・家族だけで抱え込まず、ケアマネージャーや主治医と情報共有する
ある日、母から電話がかかってきました。「知らない人が家に入り込んでいる、助けて」――。急いで駆けつけると、そこにいたのは父だけでした。
最初は「疲れているだけ」だと思っていた
母はもともと社交的で明るい性格で、誰とでもすぐ仲良くなれるタイプでした。手先も器用で、料理も得意。そんな母が「知らない人がいる」と繰り返し訴えるようになったとき、正直なところ最初は本気で受け止められませんでした。「気のせいだろう」「疲れているのかもしれない」と。
しかし同じ訴えが何度も続き、しかも「知らない人」が実は長年連れ添った夫(父)その人であることが分かったとき、これは単なる勘違いでは済まされないと気づきました。
本人にとっては「紛れもない現実」
家族として一番難しかったのは、「これは事実ではない」と分かっていても、本人にとってはそれが紛れもない現実だということです。頭ごなしに「そんなことはない」「お父さんでしょう」と正論で否定しても、本人の不安や恐怖は消えません。むしろ余計に混乱させてしまうこともありました。
時間が経つと、また父のことを認識できるようになる――という波があることも分かってきました。その「分からなくなっている時間」には、否定するのではなく、まず気持ちに寄り添うことを意識するようにしました。「怖かったね」「大丈夫だよ、一緒にいるからね」と、事実の訂正よりも安心感を優先する対応です。
家族だけで抱え込まないことの大切さ
こうした症状は、家族だけで抱え込むと精神的にかなり消耗します。我が家では、こうした訴えがあったときの窓口を家族内で分担し、状況をこまめに共有するようにしていました。一人が全て対応するのではなく、複数人で受け止める体制を作ることで、少しずつですが負担を分散できたと感じています。
また、こうした症状はケアマネージャーや主治医に共有しておくことも重要です。日々の変化を記録しておくと、診察の際に的確に状況を伝えられ、適切な対応につながりやすくなります。
正論では動かない、という前提に立つ
認知症の家族と接する中で一番学んだのは、「正しいことを言えば分かってもらえる」という前提を手放すことの大切さです。これは口で言うほど簡単ではなく、家族自身も感情的になってしまう場面は何度もありました。それでも、本人の不安や恐怖にまず寄り添うという姿勢を意識するだけで、その場の混乱がずいぶん収まりやすくなったように思います。
次回は、こうした変化の記録をどう残してきたか、実際に役立った方法について書きます。
(本記事は個人の体験に基づくものであり、医学的な助言を目的としたものではありません。症状への対応は必ず主治医・専門医にご相談ください。)


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